使用しているレザーの種類や品質にも左右されますが、革製品というものは決して安価で手に入るものではありません。それでも愛好家たちが絶えないのは、それだけ革製品に魅力があるからでしょう。Spicaではその魅力を以下の3つだと捉えています。
1)長く使えば使うほど、経年変化で味わい深くなる
2)メンテナンスを施せば、20年も30年も使える
3)自らの思い出が詰まった、何物にも代え難い人生の宝物になる
こまめに修理し、丁寧に扱えば、革製品は人生をともに過ごす相棒にもなりうる。Spicaはそのお手伝いができるよう、日々、修理の腕を磨き、新しい修理法を試しています。
一つひとつ異なる依頼品に対応するため、修理費用はどうしても高くなりがち。
突然ですが、「修理にかかる費用」をどのように捉えていますか? もしかすると、「壊れてしまった物を買い換えるよりも、修理したほうが安く済む」と考えている人もいらっしゃるかもしれません。ところが、それは半分正解で、半分誤りです。
一般的に、同じ物を大量生産するとコストが抑えられると言われています。ファストファッションのように同じモデルのアイテムを大量に生産すれば費用が抑えられ、市場にも安価で出回ります。逆に言うと、一点物やオーダー品のように、そのアイテムの希少価値が高ければ高いほど、価格も高騰するのです。
この理論で考えると、修理にかかる費用も安価では済まないことがわかります。
お客さまから持ち込まれる依頼品は一つひとつ異なるものばかりです。材料も違えば、構造も違います。それを職人たちが、自らが持つ技術を駆使し、あれやこれやと頭をひねりながら修理していくのです。当然、効率は悪いですし、材料を大量に購入することもできません。結果として、新品で買い換えるよりも、修理費用が高くなってしまうことがあるわけです。
これは修理という作業の特性上、仕方のないこと。けれど「値段が高い」という理由だけで、お客さまの中から「修理する」という選択肢が無くなってしまうのは悲しいことです。
自分だけの革製品をいつくしむ喜びは、既製品には代えられない醍醐味。
わざわざ修理をせず、買い換えればいい。そう考えてしまうのは、物への愛着を感じていないことも一因でしょう。そんな風潮が当たり前になってしまえば、革製品の修理を生業とするSpicaの存在意義も揺らいでしまいます。
そこでSpicaでは、ひとりでも多くの人たちに「良いものとは何か」を知ってもらうためのサービスを開始しました。それが「革製品のオーダーメイドサービス」です。
革靴、ベルト、財布、名刺入れ、カードケース。それらに使用する革を選んだり、ステッチの色を決めたり、名入れをしたり……。普段使いできるアイテムを取り揃え、それらを自分好みにオーダーできるようにしました。
値段はやや高めですが、その分、高品質。手にすれば、きっとその良さに納得していただけます。そして、使用しているうちに愛着が湧き、「長く使っていきたい」という気持ちが自然とこみ上げてくるはずです。これこそが革製品と付き合っていく醍醐味です。
オーダーの革製品には、既製品にはない魅力が宿ります。長く使えば、経年変化によって風合いに深みが出て、唯一無二の存在感を放つようになっていきます。それはお金では決して手に入れることができない特別な価値です。
そんな価値ある革製品を、できるだけ長く愛用していく。そのために存在するのがSpicaでありたいと思います。
お客さまのリクエストに耳を傾け、メンテナンスの提案をする。その先にあるのが、革製品とともに生きるお客さまの笑顔であることを願って。
取材・文 五十嵐 大
profile:ライター、エッセイスト。1983年、宮城県生まれ。2020年10月、『しくじり家族』(CCCメディアハウス)でデビュー。他の著書に『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』(幻冬社)がある。
twitter:@igarashidai0729