大切な人にセミオーダーの革小物を贈る――。それは胸に秘めた愛情が形になる、とても素敵なこと。ただし、革小物ビギナーからすれば、少しだけ勇気を必要とすることでもあるかもしれません。
お店によっては革の素材選びからはじまり、デザイン、大きさ、カラーなど、決めなければいけないことが山程あります。その時点で尻込みしてしまう人も少なくないはず。
けれどSpicaでは、お客さまが途方に暮れてしまわないよう、なるべくシンプルな選択肢を用意しつつ、もちろん個性や好みを反映したオーダーが可能です。
そんなSpicaで初めて革小物をオーダーしたお客さまがいます。彼女の名前はユリさん。パートナーであるタクヤさんに対し、日頃の感謝も込めて革小物を贈りたいそう。
はたしてユリさんのオーダー体験は、どんな結末を迎えるのか。その過程を全4回にわけて追いかけます。
革製品が大好きな彼に、初めてのサプライズ。寂しさを埋める贈り物。
人生をともにするパートナーとの出会いは、どこに転がっているのかわからないもの。しかも、ドラマのようにロマンティックなものとも限りません。そして、とても平凡だからこそ、それが人生を変える出会いになるとは、なかなか気付けないことも多いのでしょう。
ユリさんとタクヤさんとの出会いも、極々ふつうのものだったといいます。
「今年で結婚2年目を迎えますが、出会ったのは10年以上前。私が高校生の頃にアルバイトしていたレストランのOBだったんです。だからバイト中に接点はなくて、初めて会ったのはお店の人たちとの食事会の場でした。そこにOBとして呼ばれた彼も参加していたんです。でも、ほとんど話もせず。『新しいバイトの子なんだってね、こんにちは』くらいで終わっちゃって。だから連絡先の交換さえしませんでした」
仲良くなることもなく、それ以降、ふたりの人生が交わることはありませんでした。けれど、初めて会ってから6年後、ふたりは再会します。
「専門学校を卒業してパティシエとして働くことになったフレンチレストランに、彼がいたんです。彼はそこでソムリエをしていました。でも、同じ店のスタッフとはいえ職種が異なるので、業務中に接点があるわけでもなくて。そこでも距離が縮まることはなかったんです」
そんなふたりの間に恋が芽生えたのは、一体なにがきっかけだったのでしょうか。
「フレンチレストランということもあって、フランスに研修に行く機会があったんです。彼は私より先にフランスに出発していたんですが、3カ月遅れで、私も追いかけることになりました。そのフランスで一気に距離が近くなったんです」
慣れない土地で戸惑うことも多かったユリさんを、タクヤさんはたびたびサポートしてくれたそう。それからユリさんは、少しずつタクヤさんを意識していきます。
やがてふたりはお店を退職し、それぞれの道に進むことに。そのとき、タクヤさんから「付き合ってほしい」との告白が。ふたりの関係に“恋人”という名前がついた瞬間でした。
交際は順調に続き、4年が経つ頃、ユリさんはプロポーズされます。答えはもちろんYES。いまでは可愛いお子さんにも恵まれました。ところが、現在は別居生活を送っているとのこと。
「初めての出産ということもあり、実家に里帰りすることにしたんです。でも彼には仕事がある、だから子どもが1歳を迎えるまでは離れて暮らそうと決めました。とはいえ、お互い都内に住んでいるので、まったく会えないわけじゃありません。週に一度の休みになると、私たちに会いに来てくれるんです」
そう言いながら笑うユリさん。でも、その笑顔の裏にほんの少しだけ寂しさが滲みます。それはきっと、タクヤさんも同じはず。だからこそユリさんは、タクヤさんに贈り物をすることを決めました。
「ふたりの誕生日が近いこともあって、これまで物を贈り合うことはしてこなかったんです。それよりも高いワインを一緒に飲んだり、美味しいケーキを食べたりと、“体験”をプレゼントにすることが多かった。でも、離れて暮らしているいまだからこそ、なにか形の残るものを贈りたいな、と。彼は革製品が大好きな人なんです。でも唯一、名刺入れだけは革製ではなくて。だから今回、思い切ってオーダーの名刺入れをプレゼントしようと思っています。しかも、サプライズです」
仕事を通じて出会った人と恋に落ち、そして家族になったユリさん。果たして彼女のサプライズは成功するのでしょうか。
取材・文 五十嵐 大
profile:ライター、エッセイスト。1983年、宮城県生まれ。2020年10月、『しくじり家族』(CCCメディアハウス)でデビュー。他の著書に『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』(幻冬社)がある。
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