愛用してきた革製品を修理に出す。それはほんの少しだけ勇気を必要とすることかもしれません。イメージ通りの仕上がりになるだろうか…。長年、大切にしてきたものだからこそ、修理によってその風合いが変わってしまうのは避けたいものです。
そんなお客さまの思いを汲み取り、Spicaでは次の3箇条をモットーに修理を施しています。
1)オリジナルに近い仕上がりにすること
2)使いやすいものにすること
3)長く愛用できるようにすること
これらのモットーが、現場ではどう活きているのか。靴とバッグの修理で意識しているポイントを少しだけ解説します。
お客さま自身でメンテナンスできるように。靴を30年履き続けてもらうために
持ち込まれた靴を修理する際には、細かい部分への気配りがとても大切です。たとえば、ヒールの形状やソールエッジの装飾。これらの仕上がりを可能な限りオリジナルに近づけることで、お客さまに満足していただくことを心がけているのです。
ただし、ただオリジナルに近づければいいというわけでもありません。購入時にどんなに吟味したとしても、靴というものは実際に使ってみると、足が痛くなったり履き心地が異なったりしてしまうもの。そのためSpicaでは、お客さまへのヒアリングをもとに、「革をストレッチする」「インソール下にスポンジを挿入する」といった履き心地の改善も行なっています。壊れた箇所を直すだけではなく、靴の履き心地を改善することも修理工房の重要な役割のひとつ。「修理するだけ」を越えたサービスを提供しているのです。
また、修理完了後には、磨きやクリーニングの提案もしています。適切なメンテナンスを施すことで、靴は20年も30年も愛用できるからです。同時に、修理の回数を減らし、靴の寿命を伸ばすアドバイスも行なっています。紳士靴のつま先にヴィンテージスティールを取り付けたり、パンプスにハーフラバーソールを貼ったりすることで、靴が格段に傷みづらくなるのです。
オリジナルに近い仕上がりを重視しつつ、ときには「実用性」を大切にした提案を。
バッグの修理でもまず意識するのは、オリジナルに近い仕上がりです。そのために使われている革や金具などの材料を可能な限り取り揃え、ニュアンスに齟齬がないように修理していきます。
また、靴と同様に、バッグの修理時にも使いづらいところをヒアリングしています。ベルトひとつとっても、ほんの少し長いだけで使い勝手が悪くなってしまうもの。それを改善することで、お客さまにとっての愛用品の価値を底上げしたいと考えています。
バッグを長く愛用していただくためには、ときに「実用性」を重視することも。たとえばバッグの内袋が合皮でできていた場合、長く使用していると素材の劣化によりボロボロと崩れてくることがあります。そこでオリジナルと同じ素材を用いて修理をすれば、見た目は元通りになるでしょう。しかし、それでは数年後に再び修理をしなければいけなくなるかもしれません。その代わりに、劣化しづらいナイロン素材を用いると、修理の回数を減らすことができます。このようにオリジナルに近い仕上げを目指しながらも、ときには「長く使うこと」を見据えた提案もしているのです。
さらに具体的な修理工程を知りたい方は、下記をご覧ください。Spicaではさまざまな修理に対応する環境を整えています。
https://www.spica-inc.jp/service/mens-shoe-repair/
取材・文 五十嵐 大
profile:ライター、エッセイスト。1983年、宮城県生まれ。2020年10月、『しくじり家族』(CCCメディアハウス)でデビュー。他の著書に『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』(幻冬社)がある。
twitter:@igarashidai0729